■名探偵モンク関連コラム
2006/04/15 兄? 弟? 結論から先に言わせていただきたい。 NHKのBS2で放送された高山美香氏による吹替翻訳版では、アンブローズはエイドリアンの弟とされていたが、しかし実際には、アンブローズはエイドリアンの弟ではなく兄である。モンク風にいえば『100%の確率でたぶん』間違いない。根拠もちゃんとある。 まず、アンブローズが最初に登場した「おかしな兄弟」の中に、エイドリアンが家族写真に映っている二人の少年のうちの一人を指差し「これが僕だ」というシーンがある(下の写真参照)。そのシーンをよくみると、エイドリアンが指差している年のほうが、もう一人の少年(アンブローズ)より体が小さく、幼く見える。 |
ただし、弟より体の小さい兄はいくらでもいるので、これは決定的な根拠とはいえない。 しかし「モンクの父帰る!?」で語られた事実を「おかしな兄弟」から知り得る事実と照らし合わせると、アンブローズのほうが兄であることは明らかなのだ。 「おかしな兄弟」中の、モンク兄弟の父親は、エイドリアンが8歳の時にブランコを庭に取り付けてくれたが、その2ヵ月後に失踪したとエイドリアンがシャローナに話すシーンと、「モンクの父帰る!?」中の、アンブローズが12歳の時、父親の書斎に無断で入ったため外出禁止の罰を受けたとアンブローズ自身がジュリーに話すシーンを観て欲しい。 二人の父親が失踪した時、エイドリアンは8歳。父親の書斎に無断で入って怒られた時、アンブローズは12歳。ということは、アンブローズはエイドリアンより少なくとも4歳は年上ということになる。 ここまで読んで私のしつこさに辟易し、どっちが兄で弟だっていいじゃん! と思われている方もいるかもしれない。 私としてもつまらないあげ足取りをするつもりはないのだが、しかしフランケンシュタインとフランケンシュタインの怪物の違いがアンブローズにとっては重大であったのと同じくらい、アンブローズとエイドリアンのどちらが兄で弟かは、私にはとても大きな問題だ。それによってキャラクターの性格解釈も変わるし、二人のシーンを観た時の感じ方も微妙に違ってくるからである。 例えば、「おかしな兄弟」で、アンブローズがエイドリアンに向かって 「お前は昔から怖いもの知らずだった。15歳の時には一人で買い物にいけたし、24歳で車の運転が出来るようになり、26歳で女性とデートしたんだからな!」 と苛立ちをぶつけるシーンからもわかるように、アンブローズは自分より行動的なエイドリアンに対して強い引け目を感じているが、アンブローズのほうが兄である場合、その感情はより切実になるはずだ。 父親との関係についても、アンブローズのほうが年上であるからこそ、父親との思い出もエイドリアンより鮮明で、その分、愛着も深いのかもしれないと考えられる※1。 エイドリアンのほうも、アンブローズの観察眼は時にエイドリアンより優れている(シャーロック・ホームズの兄、マイクロフト・ホームズのように)が、その事実を少し面白くなさそうではあるものの、エイドリアンは素直に受け入れている。 「迷探偵対決!?」でマーティ・イールズにあれほど嫉妬心をあらわにした彼の性格を考えると、アンブローズが弟だったらもっとあからさまにムッとするのではないかと思うが、やはりさすがのエイドリアンも、お兄ちゃんにはかなわないや、と心のどこかで思っているのかなと思うと、なんとなく心あたたまる感じがする。 吹替翻訳家の高山美香氏は、なぜアンブローズを弟と訳したのだろうか。 単純に見た目から(アンブローズ役のジョン・タトゥーロは、エイドリアン役のトニー・シャルーブより4歳年下)そう思い、「おかしな兄弟」の時に弟ということにしてしまった(しかし明確な根拠はなかったものの、「おかしな兄弟」の時点でもアンブローズが兄であることは、上記の写真の件やお互いに対する二人の態度から疑いようがないと、個人的には感じていたのだが・・・)ので、今回もそのままごり押ししたのか。それとも私が気づいていない何らかの理由から、アンブローズのほうが弟だと確信されているのか。決して誤訳だなんだと騒ぎ立てるつもりではないのだけれど、そこがとてもとても気になる。 気になることをそのままにしておくのは私の性格的に非常にツライので、ここはひとつ、NHKと高山氏ご本人にお手紙を書いて、アンブローズをエイドリアンの弟とした理由を聞いてみようかと思う。お忙しい方だろうから、正直、お返事をもらえるとは期待していないけれど、少なくとも「名探偵モンク」のファンにはものすごくオタクでうるさいヤツがいるから、きちんとリサーチして訳さないとな、と思っていただければ、本望だ。もしお返事をいただけて、公開のご承諾ももらえたら、こちらで皆さんにもご報告したい。 また、この件につき、ご意見、異論、反論をお持ちの方は、ぜひ掲示板に投稿してください。一緒に重箱の隅をつつきまくろうではないですか!(笑) それにしても、一話完結でわかりやすくとてもとっつきやすいドラマでありながら、真剣に突っ込んでみるとなかなかに奥が深い。そういう点でも「名探偵モンク」は、やはり優れたドラマだとあらためて思う。 ※1 このコラムの論点からはずれてしまうがついでに書いておくと、アンブローズが家から外に一切出なくなったのは、エイドリアンによると34年前。その時、エイドリアンは12歳(または13歳)である。ということはアンブローズはすでに16歳にはなっていたはずで、父親が失踪してから、最短でも4年はたっている。ジュリーがアンブローズに、お父さんから外出禁止の罰を与えられたから外に出なくなったの? と聞くシーンがあるが、無断で書斎に入ったことによる父親の外出禁止令は、彼の広場恐怖症のきっかけにはなったかもしれないものの、アンブローズが外に出なくなってしまった直接の理由ではないと思われる。 文責:Lui |