■警部のブログ 翻訳
 以下の文章は、USA NETWORKの公式サイトに掲載されているブログの、警部のブログをLuiが日本語に翻訳したものです。原文の著作権はUSA NETWORKにあります。
FEB. 3, 2006
特別授業

 時々、俺の人生には仕事しかない、と思う。最近、特にだ。実際あまりにも長い間警察官をやっているので、そもそもなんで警察官になろうと決めたのか、俺は忘れかけていた。だが先週、それを俺に思い出させてくれる出来事があった。

 最近、少し暇な時間ができたので、いつもとは違う何かをしたいと考えていたところ、警察学校時代の古い友人で、今はサンフランシスコ警察の新規採用プログラムの責任者をしている男にばったり出くわし、良い機会なのでプログラムに参加させてもらうことにした。

 彼は俺に、今度卒業を迎える高校生達のグループに警察官の仕事について話してやってくれないかと頼み、俺は承諾した。俺はSFPDの歴史と警官を志す若者達に与えられるさまざまなチャンスの情報を詰め込んだ大量のスライドを与えられ、数日後、地元の高校に話をしに行った。

 教室に入ってすぐ、俺は後悔しはじめた。

 本当のことを言えば、俺はこの手の話をするのがあまり得意じゃないし、こうるさいジジイみたいなことは言いたくないが、正直、最近の子ども達のことはよくわからない。だが、ティーンエイジャーどもを怖がるわけにはいかないので、とにもかくにも俺は話を始めた。

 ほとんどのスライドは、わかりやすくて、控えめにいっても、ちょっと退屈なものだった。これでは子ども達は、長い時間は集中していられないだろうと思ったらやはりそのとおりで、そのうちに彼らの気はあっちこっちにそれはじめた。

 ひとり、いかにも問題児といった感じの子がいた。彼は前のほうに席に座っていたが、俺の話を全く聞かずに、前の席の女の子にイタズラをしかけていた。彼女に気づかれないように、彼女のバッグからヘアブラシを抜き取ろうとしていたのだ。俺に言わせりゃ子どもっぽいイタズラだが、他の子ども達は大騒ぎが起こると思っているようだった。

 俺も初めは無視した。だがそのうちに、クラス中が俺の話ではなく彼の行動に注意を向け始めたので、仕方なく俺は事態の収拾に向かった。

 俺は話をしながら、ゆっくりとその子どもの席に近づき、そしていきなり振り返って言ってやった。
「おい、ロミオ。そのレディーのことはほうっておいてやれ。もしお前が彼女のかばんからブラシを取ったら、窃盗で逮捕するぞ」

 これには、クラス中がショックを受け、教室内は完全に静まり返った(ティーンエイジャーと過ごす機会が多い方なら、彼らといる時静けさはどれほど珍しいものか、よくご存知だろう)。

 ロミオは呆然として、それから「お父さんがあんたを訴える」とかなんとかぶつぶつ呟いた。

 俺は大笑いして、警察官はいつだって誰かから訴えられている。パパっ子の可愛い坊やからいくら脅迫されようと、正しい行動をとることを俺は絶対に止めはしない、と教えてやった。それから俺は『特別の意思』という法律用語の意味を説明し、それが犯罪を立件する上で重要な要素となることを話した。

 次に、ロミオの隣の席で一部始終を見ていた生徒に、どのようにしてロミオが被害者のかばんに近づいたか、またどのようにしてブラシをかばんから抜き取ろうと試みていたか、くわしく語ってくれるように頼んだ。

 そして、ロミオがかばんに近づき、ブラシを掴もうとした行為のひとつひとつが、ブラシを盗むという犯罪を構成する、独立した行動であると説明した。

 さらに、いくつかの重要な法的原則を説明し、立件すると、俺は、ロミオの運命を陪審員の手に委ねた。彼のクラスメイト達だ。

「有罪か? 無罪か?」
 俺が尋ねると、クラス中がひとつになって答えた。
「有罪!」

 クラスが終わった後、俺は一時間ほど、子ども達からの質問に答えて過ごした。俺のささやかなデモンストレーションは、彼らの関心を惹いたようだ。彼らの中に本当に警察官としての道を選ぶ子がいるかどうかはわからないが、今まで警官になることなど考えたこともなかった子ども達にも、少しはこの仕事に興味を持ってもらえたような気がした。

 実際に、警察官という仕事の喜びはそれだけではない。これまで長い間やってきたが、ここにきて初めて俺は、自分の仕事の何を愛していたのかを思い出した。この仕事に就いたばかりの時、自分はとても重要で価値のある、人々の助けとなる仕事をしているのだと感じていた、あの頃の気持ちを。

 それを思い出せたのは、ささやかだが、素晴らしいことだった。

翻訳:Lui

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