■警部のブログ 翻訳
 以下の文章は、USA NETWORKの公式サイトに掲載されているブログの、警部のブログをLuiが日本語に翻訳したものです。原文の著作権はUSA NETWORKにあります。
JAN. 27, 2006
おそろしい予感

 逃げ隠れする気なしに声を大にして言うが、俺はたいていの弁護士が大嫌いだ。 これまでの人生の中で、イヤミな奴でもなければ、おしゃべりでもないという弁護士には、片手で数えられるほどしかお目にかかったことがない。尊敬に値すると思う弁護士は数少ないが、その中の一人から、今日、思いがけず訪問を受けた。彼の名はトニーとしておこう。トニーとはかれこれ15年以上の付き合いがあり、今では、気心の知れた間柄になっている。

 誤解しないでほしいが、今でも俺は、トニーのことをカナリアのカゴの中の猫と変わりないと思っている。しかし、この暴力的な世界の中では、何事も白黒はっきりつくとはかぎらない。常に偏見から自由でいることが大切だ。

 そんなわけで、彼が今日、俺のオフィスにきて話をしたいといった時、俺は聞く気十分だった。

 トニーは、これは単なる仮定としての話だが、ある男が私の事務所にきて、妻を殺したと告白した、と私が言ったらどうする? と尋ねた。トニーは明らかに「仮定的」な弁護士として、どうすればいいのか知りたがっていた。俺は即答した。

 弁護士であろうとなかろうと、仮定としてのあんたには、殺人者の氏名と、被害者がいるであろう場所を明らかにする義務がある。もしかしたら、彼女はまだ生きているかもしれないのだから。ある被告側弁護士が無実の女性の死に手を貸したなんて、サンフランシスコの新聞に書き立てられたくはないだろう?

 すぐにトニーは演技を止めて、その男は妻を家の下の階で殺したらしい、と言った。そして、その男をすぐに連れてくる、と。

 まもなく、トニーは背の低いさえない男を連れて、再び現れた。その男はがっくりとうなだれていた。良くない兆候だ。すぐさま被害者はどこにいるかと聞くと、トニーが住所を教えてくれた。俺はディッシャー警部補に、警官を現場に派遣し、そこにいるはずの成人女性の安否を調べ、無線で知らせるよう手配させた。

 俺は、トニーとその依頼人――ここではマイケル・スミスと呼ぶことにしよう――を取調室に連れて行った。その部屋に向かう時、俺はマイケルの靴とズボンに新鮮な血痕があることに気づいた。また、彼の手は清潔だったが、その爪は、馴染み深い血液の跡によって汚れていた。

 マイケルに権利を読んで聞かせた後、俺は彼に何が起こったのか最初から全て話してくれと言った。彼が話し始めると、次第に俺は、なんというか、落ち着かなくなってきた。

 マイケルが語った、彼の30年にも及ぶ結婚生活は、理想的なもののように思えた。彼と彼の妻マーガレットは、10代の時に出会って恋に落ちた。彼らは二人とも高い教育を受け、懸命に働いて、予想以上の成功を収めた。家族のために最善を尽くし、彼らの間にできた3人の素晴らしい子ども達のためにも、出来る限りのことはなんでもしてきた。

 そのうち、大学の授業料が値上がりしたのをきっかけに、マイケルはもうひとつ、別の仕事に就いて働くようになった。彼が言うには、彼が家族のために骨身を削って働いている間、マーガレットはリラックスして、だらけているように見えた。マーガレットはどんどんよそよそしくなり、彼が結婚した女性と同じ人間だとは思えなくなっていったという。

 彼は彼女に対して疑いを持ち、自分が家にいない時、彼女が何をしているのか調べ始めた。彼は最初に私立探偵を雇い、その男はいくつかの疑わしい情報を掴んだが、それ以上彼は、その探偵に金を払いつづけることはできなかった。

 次にマイケルは、携帯電話の領収書が消えてなくなっていることに気づき、また、彼がいない間はほとんどずっと家にいると言っていたにも関わらず、彼女の車の走行距離が増えていることにも気づいた。彼の疑いは確信に近づいていったが、彼女に面と向かって問いただそうとするたびに、彼女は鼻先で軽くあしらうか、非難の矛先を別の方向に向けてしまった。

 マイケルが話しつづけている間、俺はその話を、あまりにも身近なものとして聞いていた。まるで、赤の他人が俺自身の結婚生活について語っているかのようだった。そして、彼が語るストーリーは、明らかにハッピーエンディングを迎えられそうになかった。

 ちょうどその時、話はノックの音に遮られた。ディッシャーは部屋の外から身振りで、俺の最悪の予想が当たっていたことを伝えてきた。マーガレットは何回も刺され、確かに死んでいた。俺がテーブルに戻ると、マイケルは俺が何か言う前に自分から話を続け、いかに妻を殺したか、残虐な部分にいたるまで詳しく語った。

 取調べが終わり、ディッシャーがマイケルを連れ去った。トニーは急いで、彼の依頼人の証言は精神的に正常ではない状態でなされたもので、心神喪失のため責任能力はなかったものとするつもりだ。たぶん、このケースは裁判にまでいかないだろう、と言った。俺は、それは違うといってやりたかったが、言えなかった。

 俺は刑期の軽減事由なしとして、この殺人事件を告発するだろう。そして、精神科医と最後まで争うことになるだろう。

 だが、不思議なことにこの事件は、これまで数多くの気味の悪い殺人事件を散々見てきたはずの俺の心に、強く残った。

 たぶん俺は、我が身につまされたのだ。俺は殺人者ではないが、だが実際のところ、あの男と俺との間に、どんな違いがあるだろう?

 つまり、俺は妻を愛していて、彼女の髪の毛一本だって傷つけるつもりはないが、だがもし、違ったやり方で、今日、署で出会ったあの哀れな馬鹿野郎と同じことをやったとしたら? もし、俺達の結婚生活と家庭をぶち壊しにしてしまったら? カレンと俺の間が、もう二度とうまくいかなくなってしまったら?

 俺がもし、彼女を、永遠に失ってしまったとしたら?

翻訳:Lui

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