■ナタリーのブログ 翻訳
 以下の文章は、USA NETWORKの公式サイトに掲載されているブログの、ナタリーのブログをLuiが日本語に翻訳したものです。原文の著作権はUSA NETWORKにあります。
MAR. 3, 2006
モンクと草サッカー

 私は、神かけて根っからのサッカーママで、それを誇りにも思っている。娘のジュリーは、オールガール・リーグ所属のスラマーズというチームのディフェンスだ。金曜日、子ども達は次の土曜の朝に行われる試合のための練習試合に集められた。そしてモンクも私と一緒にその試合を観にやってきた。家にいては落ち着かなかったためだ。

 彼は、あまりにもその数が多くてその全てに事情聴取するのは何年もかかるというくらい敵の多い銀行家が、ひどく殴打されて殺された事件の捜査にあたっていた。モンクが得た唯一の手がかりは、殺人者が残していった、不規則にべたべた踏まれた血まみれの足跡だけ。

 ストットルマイヤーは足跡に関して、被害者が自分を守るために犯人を殴り、それで犯人はくらっときてふらついたのではないかと考え、付近の病院に、頭に傷を負った人物が来ていないか調べさせていた。

 しかし、その謎はモンクの頭に引っかかって、彼をおかしくさせていた。つまり、いつもよりももっと。

 サッカーの試合に行く途中、彼の様子を見るためにモンクの家に寄ると、彼はたった一人でカーペットを洗っていた。それで私はジュリーが嫌がるのを無視して、彼を一緒に連れて行くことにした。

 スラマーズの対戦相手はキラー・クリーツという、リーグ1強くて性悪なチームだった。キラー・クリ―ツの12歳の子ども達は、まるで格闘技のように、彼女らの邪魔をする者はぶち殺すつもりでサッカーをプレイした。彼女らは度が過ぎて乱暴で、コーチのハーブ・フェルダーという図体が大きくて気の荒い男は、彼女達をさらに焚きつけて、対戦相手を歯の間の肉のように凶暴に噛み砕いてしまおうとしていた。

 両チームのコーチ達と家族は、サッカー場の同じ側のスタンドに座っていたが、それぞれに4列ずつ外野席のシートが与えられていた。

 第1クォーターの早い時間に、キラー・クリーツのメンバーの一人の後頭部にボールがあたり、それによってスラマーズに1点を許すという展開があった。審判はホイッスルを鳴らし、傷ついたケイティという女の子が、フィールドから出て行く時間を作った。ケイティは涙を堪えながらふらふらとサイドラインを出て、他のキラー・クリーツのメンバーが彼女の代わりに入った。

「いいディフェンスだったよケイティ。いいプレイだ」
と、私達のチームのコーチであるジュリオ・メンデスが、通り過ぎる彼女に向かって、心から慰めの言葉をかけた。彼は4人の娘の父親で、とても優しい男性だ。その子はちらっと彼を見たが、何を言ってるのかわからないというような顔をした。

「あれでサッカーしてるつもりか?」
 フェルダーは、飛び散る唾がケイティの顔にかかるくらい近くに顔を寄せて、彼女を怒鳴った。
「貴様は負け犬だ。鼻水をたらした蛆虫だ。まったくうんざりする」
 さらにフェルダーは、ついに泣き出し、当惑している両親のもとに戻ろうとする彼女の真似をして、
「しかも泣き虫だ」と付け加えた。
「俺が吐いちまう前に、とっとと俺の視界から失せろ」

 ジュリオはうんざりした顔で
「おい、言いすぎだと思わないのか? 彼女達はまだ子どもだし、これはただのゲームじゃないか」
 彼はジュリオを鼻で笑った。
「そいつは負け犬が吐くお決まりのセリフだな」

 ゲームが再開されてすぐ、キラー・クリーツのメンバーの一人が、スラマーズの子の背中を押し倒した上に彼女を踏みつけゴールを決めると、フェルダーは拳を空に突き上げて、勝利のステップを踏んだ。

「あいつ大嫌い!」
 私はモンクに言った。
 しかしモンクは、私のそばにはいなかった。彼は外野席の上の方にいて、それぞれの列に座る人数が均等になるように席を移動してくれと、人々を説得しようとしていた。
 私は立ち上がって、彼を席に引っ張り戻した。
「お願いだから、ご両親達に迷惑かけないで」
「彼らを見てくれ」
 モンクは言った。
「一列に三人座ってるかと思えば、別の列には五人。一番上には一人しか座っていない。とても無責任だ。彼らは、子ども達の見本となる座り方をするべきなのに」

 キラー・クリーツは、肘うちや蹴りやタックルでスラマーズを蹴散らして、再びゴールを決めた。それなのに審判は、ひとつもペナルティをとろうとしなかった。彼は盲目か、でなければフェルダーの友達に違いなかった。

「彼が見せてるお手本はどうなのよ?」
 私は言った。フェルダーはまた、勝利のステップを踏んでいた。
「血まみれにしちまえ!」
 フェルダーはチームに向かって叫んだ。
「うちのチームは殺されかけてるわ」
 私は言った。するとモンクはフェルダーを見つめ、呟いた。
「警部に電話してくれ」
「本当に殺されかけてるわけじゃないわよ」
「警部に電話だ」
 モンクは肩をすくめ、首をかしげた。
「彼に手錠を持ってくるように言ってくれ」

 ストットルマイヤー警部が現れた時は、試合はセカンド・ハーフで、スコアは7対1.そしてモンクは私達のチームの親達に、みんな同じ列の中央に座るよう口やかましく言い聞かせていた。

「あとで僕に感謝しますから」
 彼はそう言っていたけれど、私には疑わしかった。彼らはもしかしたら今後、私を試合に出入り禁止にするかもしれない。彼らが睨みつけているのはわかっていたが、私は知らないふりをしていた。

 ストットルマイヤーの顔には、親達と同じ表情が浮かんでいた。彼はTシャツにウインドブレーカー、それに色あせたジーンズという格好で、明らかに、休みの日に家から引きずり出されたのが面白くない様子だった。
「ちゃんとした理由あってのことだろうな、モンク」

「あっちの親達にも話をしなくてはならないんです」
 モンクはキラー・クリーツの保護者達の方を指差した。
「彼らは僕の話を聞いてくれないので」
「お前は、外野席の人々をきちんと並ばせるために、俺をここまで呼びつけたのか?」
「これは安全に関わる問題です」
「なるほどね」
 ストットルマイヤーはモンクに背を向けたので、スラマーズのゴールキーパーがキラー・クリーツにぶちのめされて、ゴールを決められたのは見なかった。
「俺は帰る」
「待ってください。帰るのはコーチを逮捕してからですよ」
「観客をバラバラに座らせた罪でか?」
「殺人罪です」

 ストットルマイヤーは立ち止まり、ゆっくりと振り返ってモンクを見た。
「ゲームに勝ってるからって、逮捕は出来ないぞ」
「銀行家殺しではどうです?」
 モンクはいった。ストットルマイヤーは彼を見つめた。
「冗談だろ」
 モンクは、勝利のステップを踏んでいるフェルダーを指差した。
「あれが、足跡の理由です」
「そうなのか?」
「あれは彼なりの勝ち名乗りの儀式なんですよ」
 モンクはいった。
「あのステップは、銀行の血まみれの足跡に一致しています」

 ストットルマイヤーとモンクはフェルダーに近づき、彼が踊る足元を見つめた。
「なんてこった」
 ストットルマイヤーは言った。
 フェルダーはくるりと回ると、彼らを睨みつけた。
「何してやがるんだ?」

 ストットルマイヤーは、バッジをフェルダーに向けてきらめかせた。
「サンフランシスコ市警殺人課だ。お前をゴールデンステイト銀行頭取E.L.ランカスター殺害容疑で逮捕する」

 フェルダーは驚きのあまり、口をぽかんと開いた。彼だけでなく私も、周りの人々も、全員、口をぽかんと開いた。ストットルマイヤーはフェルダーに手錠をかけ、権利を読み上げると、彼を連行しようとした。

 するとモンクが咳払いした。
「なにか忘れてませんか?」

 ストットルマイヤーは、小さく唸ると振り返り、キラー・クリーツの保護者達みんなに見えるようにバッジを掲げた。
「聞いてください。あなた方にはふたつの選択肢があります。一列に同じ人数ずつ座るか、全員同じ列に座るかです」
「なんでですか?」
 親の一人が尋ねた。
「これは安全に関わる問題だからですよ」
 ストットルマイヤーは言った。
「もし、引用ではなく直接、理由をお聞きになりたかったら、彼に聞いてください」
 ストットルマイヤーはモンクの方を顎で指すと、フェルダーをつれてフィールドから出て行った。

 スラマーズとその親達は拍手し始めた。彼がハーブ・フェルダーに手錠をかけさせ、連れ去らせたことを褒め称えたのだ。しかしモンクの受け取り方は違った。
 モンクはいった。

「ね? みんな、バランスよく座るのを喜んでいるだろう」


翻訳:Lui

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